かみ合わせの癖が体に悪い影響を与える
みなさんが普段口を閉じている時、上下の歯はどうなっていますか?
触れあっていますか? それとも離れていますか?
もし、唇を閉じたときに上下の歯が触れあっている人は、普段無意識のうちに上下の歯を触れあわせて、
食いしばっているかもしれません。
これは専門用語で、TCH(Tooth Contacting Habit:上下歯列接触癖)と呼ばれます。
本来、私たちの歯は、何もしていない時は上下接触していません。
唇を閉じていても上下の歯は軽く離れているのです。食事や会話をする時は上下の歯と歯が瞬間的に触れあっていますが、
1日の歯の接触時間をトータルすると、平均17.5分といわれているぐらい短いのです。
ところが何かの作業をしているときや考え事をしている時、テレビを見ている時などに
上下の歯を触れあわせたままにしている人がいます。
たとえ強く噛んでいなくとも、上下を軽く接触させただけで口を閉じる筋肉は働いてしまいます。
これは歯や歯を支える骨、筋肉などがずっと働きっぱなしの状態になるということで、たとえ弱い力でも長時間接触しているだけで、
本来かかる力以上の負担をかけ、お口の健康にさまざまな影響が出てくる原因になります。
- 歯がすり減る・欠ける
弱くてもつねに力がかかっていると歯の表面に細かいヒビが入り、小さなかけらとなって歯の表面がはがれおちます。
歯の根元部分は特に負担がかかりやすく、気づくとえぐれるように歯がすり減って、虫歯や知覚過敏の原因になります。 - 歯周病の治療効果が上がらない
歯周病は、プラークや歯石の中にひそむ歯周病菌によって歯茎が腫れたり、骨が溶けていったりする病気です。
歯周病の治療には徹底的にプラークや歯石を取り除いて進行を抑えることが必要ですが、
歯が触れ合う癖で骨に余計な力がかかっていると、歯周病菌を取り除いても骨はどんどん減っていき、歯がグラグラ揺れてきます。
- 治療した部分が壊れる
丁寧に治療をしても、持続的な偏った力がかかると詰め物や被せものが壊れたり、取れてしまい、何度も治療を繰り返すことになってしまいます。
- 肩こりや頭痛の原因となる
口を閉じる筋肉が働くと、顎関節は押さえつけられます。これが長時間になると関節への血の巡りが悪くなり、
ちょうど正座していて足がしびれたときと同じように、感覚が敏感になって痛みを感じやすくなってしまいます。
顎関節周囲の筋肉への血流も悪くなるため、頭痛や肩こりの原因となるのです。
そのほか顎が痛む「顎関節症」や歯がしみる「知覚過敏」などの遠因ともなります。
TCHは生活環境の変化や体調の変化、気候の変化などあらゆることがきっかけになる可能性があり、ご本人がTCHに気付いていなくても、
診療中の問診や口腔内の状況から診断できます。
私共のクリニックでもTCHが原因のトラブルを訴える患者さんが非常に多い印象があります。
「認知行動療法」で治療が可能
では、普段から上下の歯を触れあわせる癖がある人はどのように対処したらいいでしょうか。
TCHの基本的な治療方法は「認知行動療法」です。自分自身が歯が接触しているということを自覚して、構えすぎず、無理のない範囲で歯を接触させないようにすることです。
具体的には「歯を離す」などと書いたメモを目につくところに貼り、メモに気付いたらあごの力を抜いて歯を離す、ということの繰り返しです。
「え?そんなことで?!」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし実際に治療を始められた患者さんは
「車を運転している時に食いしばっていた」
「包丁を持って料理しているときに食いしばりがち」など、
ご自身の状況を理解し、意識することで解決に向かっています。TCHに心当たりのある方はぜひ実践してみてください。
ないき歯科クリニックでは、TCHのトラブルのある方に認知行動療法用のふせんをお渡ししています。